今年の12月2日から、新たな健康保険証の発行がされなくなります。順次、マイナンバー健康保険証(以下、マイナ保険証)に移行して行くと言う訳です。これまでの健康保険証がすぐに使えなくなると言う事ではありませんが、最長1年間の期限です。また、マイナンバーカードと健康保険証を紐付けしていない方には、「資格確認書」と言うものが、各保険者から新たに発行される事になっています。わざわざ新たな発行をする手間と、かかる費用を考えれば、「現行の健康保険証を残せば良いのに」と誰もが感じると思います。
現在、様々な立場からマイナ保険証に対する反対の声が上がっています。法律家の皆さんからは、「マイナンバーカード取得は任意なのに、健康保険証と言う日常生活に必須のものと紐付ける事は、法的に間違っている」。医療機関からは、「マイナ保険証の本人認証システムはまだ不完全で、きちんと認証されない場合がある。これまでの健康保険証に比べて窓口での手間も増え、ただでさえ大変な医療現場に負担をかける」。介護施設からは、「入所者全員のマイナンバーカードを責任を持って管理し、暗証番号など本人認証まで施設職員が担うことは困難」。人によっては、「日本の政治が信頼出来ず、システムの安全性も心配。国民の個人情報を一まとめにしてどの様に使われるかが不安。マイナンバーカード自身に反対するのでマイナ保険証にも当然反対」と言う意見を持っている方もいます。
先日、マイナ保険証について改めて考えさせられる事が個人的にありました。88才になる私の母親が転倒して骨折したのです。救急搬送される事になり私が同乗したのですが、行く時に妻から「これ、お母さんの健康保険証とマイナンバーカード。マイナンバーカードの暗証番号は知ってる?」と言われました。もちろん暗記などしていません(皆さんはご自身のご家族のマイナンバーカード暗証番号を暗記されていますか?)。母親はしんどそうで耳も遠く、暗証番号を自分で言えるか不安な状態でした。救急搬送だから病院での顔認証も難しいはずです。「今後、健康保険証が使えなくなってマイナ保険証だけになったらどうするんだろう」と思いました。緊急性と頻用性が高い健康保険証と、極めて高い機密的な個人情報を集約したマイナンバーカードを紐づけする考え方自体に間違いがあると強く感じました。マイナ保険証だけになった場合の、医療現場での混乱は必至だと思います。
耳原鳳クリニックでは7月から訪問診療患者さんに、マイナンバーカードを持っているか、持っていれば保険証と紐づけしているかのアンケートを開始しました。半数の方がマイナンバーカード自身を取得しておらず、マイナンバーカードと健康保険証を紐付けしている患者さんは、全体のわずか15パーセントだけでした。「マイナンバーカードって、どうやって申請するんですか?」と言われる患者さんもいらっしゃいました。これは、医療を受ける権利の問題です。多くの問題を抱えているマイナ保険証。「まずは立ち止まれ」と要求してゆきたいです。