COVID-19罹患後症状は今や一般的な疾患となり、当院にも多くの患者さんが受診されています。日本では「COVID-19診療の手引き~罹患後症状のマネジメント」が刊行されているのですが、残念ながら日常診療に役に立つレベルではなく、2023年10月の改定が最後になっています。そのため、最近の研究結果については、各医師が個人的に調べて勉強して行くしかありません。コロナ後遺症は様々な症状をきたすのですが、その中でも脳障害(認知機能低下、集中力の欠如、うつ状態や不安症など)に関わる症状は、なかなか改善せずに苦しんでおられる患者さんが多いです。
2022年に発表された研究結果ですが、アメリカの退役軍人15万4千人のコロナ患者さんを対象に、12ヶ月後の神経系後遺症を、正常な方と比較調査したものを表として示します。
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脳血管障害 |
認知・記憶障害 |
末梢神経障害 |
メンタル障害 |
筋骨格障害 |
リスク |
1.56倍 |
1.80倍 |
1.34倍 |
1.43倍 |
1.45倍 |
認知・記憶障害をきたす率が約2倍にもなるのには驚かされますし、色んな神経系後遺症をきたすことが分かります。15万人以上の患者さんが研究対象ですから、結構信頼できるデータです。確かに当院に受診されるコロナ後遺症患者さんも、記憶力が落ち、メンタル不全や痛み・しびれを訴える患者さんが多く、この結果には納得させられます。
2023年に発表された、認知障害に焦点を当てた研究もあります。レビュー研究と言って、世界中の多くの研究結果を統合して大きなデータにしたものを解析したものです。このレビュー研究ではコロナ感染後に持続する認知障害を呈した患者さんを対象とした180の研究結果を統合しています。最も多かった認知障害は「記憶障害」で82%、「注意–実行機能障害」で69%、「精神運動遅滞(いわゆるブレイン・フォグ=頭にもやがかかった感じ)」で59%でした。また、精神症状では「うつ状態」で78%、「不安症」で77%、「不眠」で66%でした。当院の患者さんも、上記のような症状のため仕事や日常生活ができなくなる方が少なくありません。ご本人の苦しみは非常に強いものです。当院から処方する漢方薬や睡眠剤では症状が改善せず、精神科クリニックにご紹介する方もいらっしゃいます。
2024年に掲載されたばかりの、「ランセット」と言う非常に権威の高い医学雑誌での記載についても触れます。コロナ感染後の6ヶ月後もしくは12ヶ月後のアルツハイマー病のリスクは、他の呼吸器感染症に比べて約3倍のリスクがあると言うのです。これは驚きです。そのような目で患者さんを診ていませんでしたので、これから気を付けてゆかないといけません。
コロナ後遺症のメカニズムは、まだ十分に解明されていません。当然治療方法も未確立です。COVID-19に罹らないことが、5類感染症になった今でも大切です。毎日のようにコロナ後遺症患者さんを診療していると、コロナワクチン接種もまだまだ重要だと感じます。COVID-19は「普通の風邪」とは明らかに異なります。皆さんも是非関心を持って頂きたいと思います。