私は医師であり、「戦争政策に反対し、平和を守る」ことを掲げた全日本民医連の事業所に勤めています。一人のいのちを救うことがどれだけ大変なことか、これまでの30年以上の医師人生で嫌と言うほど経験してきました。簡単に人の命を奪ってしまう戦争。いのちを救うための医療機関やシステムを破壊しつくしてしまう戦争。私は医師として、民医連法人の理事長として、そして大切な家族や友人を持つ一人の人間として、一切の戦争政策に反対してゆくつもりです。ですから、第二次世界大戦の大きな反省から生まれた日本国憲法の9条が、今大きく変えられようとしていることを強く危惧しています。
憲法9条は、日本国憲法の基本原則の1つである「平和主義」を規定しており、1項で「戦争の放棄」、2項で「戦力の不保持」と「交戦権の否認」を定めています。皆さんは、憲法で「戦争をしない」と決めている国が結構多いのをご存じでしょうか?ドイツやフランス、イタリアなどの憲法にも戦争放棄をうたった条項があります。憲法9条は2項に大きな意味があるのです。「戦力を持たない」はずですので、「では自衛隊は戦力にあたらないのか?」と言う歯止めが常にかかるのです。
自民党は「自衛隊等明記案」として、9条の2を追加し、「自衛のための自衛隊を保持する」旨の条項に変えようとしています。「現在、自衛隊はあるのだから良いじゃないか?」と思われる方がいるかもしれません。法律は後ろの条項がより効力を持つとされています。9条の2で自衛隊が認められれば2項の「戦力」にあたらないとされる可能性があります。歯止めがかからなければ、すでにある安保法制により自衛隊はアメリカの戦争に加わって海外に行くことが出来ますから、戦争に大きく近づくことになります。
また、現在政府は「安全保障関連3文書」の改定作業を進めています。「国家安全保障戦略」、「防衛計画の大綱」、「中期防衛計画」の3つですが、「敵基地攻撃能力」を不可欠とし、大量のミサイルを装備。年間5兆円も軍事費を増額して、それを増税により賄おうとしています。また防衛省以外の省庁も軍事体制に組み込もうとしています。これまでの「専守防衛」から敵を攻撃する方向にかじを切り、大軍拡に突き進むことは、憲法9条1項の実質的な否定です。
今、「歴史の転換点」だと感じます。ここで「戦争政策反対」と大きく声を上げ、多くの人々に問題点をお知らせし、運動を作ってゆかなければ、後世の人々に「何故あの時、人々は反対しなかったのか?」と思われることでしょう。私が小学生の頃、父親に「どうして日本が戦争に向かおうとしたときに反対しなかったの?」と問うたように。父親の答えは、「嫌な雰囲気だと思っていたが、まさか戦争になるとは思っていなかった」でした。まさしく同じことが起きようとしています。いろんな方法を使って、多くの方に問題を訴えてゆきたいと思います。