私は、全ての外来予約患者さんの「予習」を行ってから、外来診療に臨んでいます。外来診療では、患者さんから色んな訴えがなされますが、それに対して自分自身の知識や経験が不十分で即答できない場合があります。そういう場合には他の医師の意見を聞いたり、じっくりと考えたりしてから、患者さんに適切な返答をしなければなりません。また患者さんに何らかの検査をして、その検査結果から次の方針を導き出すのに、ガイドラインや教科書を見てからでないと判断が難しい場合があります。自分にとって初めての患者さんが予約に入っている場合には、あらかじめ紹介状を読んでおいたり、カルテでこれまでの経緯を見ておいたりして、頭の中でだいたいの患者さん像をつかんでおかないと、患者さんのニーズに合った外来診療ができません。このように、外来診療の短い時間だけでは、なかなか患者さんに責任を持った診療はできないものです。
予習はだいたい、1~2週間前に行っています。もちろん午前、午後、時には夜も診療や会議をしていますから、この予習は夜に居残りをして行っています。なかなか時間がかかります。1人の患者さん当たり、少なくとも平均して2~3分はかかるので、外来診療にかかる時間の1/3から半分程度をさらに予習のために費やしているイメージです。私は午前と午後の外来だと1日に50人程度の患者さん予約が入っていますから、1日分の予習だけで2~3時間かかります。これを毎日毎日行っているので、予習は「歯を食いしばりながら」行う感じです。
でもこの予習が自分自身の知識や経験を向上させます。学会が出している各種の診療ガイドラインは、なかなか普段は読まないものです。自分が感じた臨床上の疑問点を、ガイドラインに照らし合わせて一つ一つ解決してゆく作業の中で、それが生きた知識として身についてゆくことが実感できます。また当院は、幸いにいろんな分野の専門医がいます。専門医にアドバイスを求めると、実践的な知識が身につきますし、患者さんにとってもより良い医療が提供できます。患者さん1人当たりにかけられる外来診療の時間が十分にあれば、診療時間内にこのような作業ができるのでしょうが、私の外来予約は30分間に5名程度の枠設定になっており、とても無理です。予習なしでは患者さんに申し訳が立ちません。
「では、もっと余裕のある予約枠設定にすれば良いではないか」と思われるでしょう。日本の診療報酬制度は、余裕のある外来患者数で経営が成り立つようなものになっていません。また医師も余っているわけではなく、少ない医師数で多くの患者さんを診療するスタイルが、日本の外来診療の姿です。私が行っている外来予習は、明らかに「無理をしている感」がありますので、そんなことをしなくても余裕を持って外来診療できる診療報酬制度に変えてゆかなければと思います。