当院にも「新型コロナウイルス感染症にかかったが、体調がすぐれない」「コロナ後に驚くほど頭の毛が抜けたが大丈夫だろうか?」といった症状の患者さんが受診されています。新型コロナウイルス感染症が世界中に広がった当初から「コロナ後遺症」の存在が指摘されていました。しかし、わが国においてはあまりクローズアップされてこず、「若者はコロナにかかっても重症にならないでしょう?」と今でも新型コロナウイルス感染症を甘く見ている方が少なくありません。現在耳原鳳クリニックでは「コロナ後遺症診療マニュアル」を整備しています。ここではその一部をご紹介して、皆さんに「コロナにはかからない方が絶対に良い」ということを強く認識していただければと思います。
驚くのは、コロナ後遺症が全身の臓器に起こるということです。後遺症が出現する臓器は、「肺」「血液凝固」「心血管」「精神/神経」「腎」「内分泌」「皮膚」とほぼ全てです。やはり肺の後遺症が最も多く、60~100日後で42~66%の患者さんに呼吸困難が認められます。また胸部CT撮影を行うと、6ヶ月後でも約50%の患者さんに肺の異常陰影が見つかります。精神/神経の後遺症も頻度が高く、1ヶ月後に約56%で以下のどれか一つが該当(PTSD/抑うつ状態/不安/不眠/強迫神経症)し、片頭痛様の頭痛は6週間後で約38%に認められます。有名な味覚/嗅覚障害は、6ヶ月以上たっても約10%に認められます。また「新型コロナウイルス感染症関連腎症」と言う新たな病気の概念が提唱されているほど腎機能障害が多く、6ヶ月後に35%の患者さんに腎機能障害が認められます。驚くことに13%の患者さんでは急性期に腎機能は正常だったとのことなので、後遺症というよりも、「コロナが治った後で腎臓が悪くなってくる」という感じです。脱毛も約20%に認められ、「休止期脱毛症」と言って成長期の髪が急激に休止期に移行して、「ごっそり抜ける」感じになります。
その他、頻度は高くないですが静脈血栓症、心筋障害、糖尿病、甲状腺機能異常なども起こるようです。このような内容は、まだ日本の医師全体に浸透していません。私たちは患者さんの診療をするうえで、きちんと学んでゆかなければと思います。このような後遺症が起こる原因として、新型コロナウイルスが呼吸器系の細胞だけでなく、種々の細胞に感染すること、急性期に炎症反応が非常に強く起こるための二次的な組織障害、血管内での微小血栓の存在などが挙げられています。不思議なことに、急性期の新型コロナウイルス感染症で重症化のリスクとされる、糖尿病、心血管疾患、腎疾患、がんなどは、後遺症との関連は示されていません。やはり新型コロナウイルスは従来の風邪のウイルスとは全く異なる、非常に厄介な病原体の様です。
検査方法や治療方法も、まだ確立されていません。現時点で存在する各疾患のガイドラインに従い、これまでに有効とされている検査や治療法を試みるだけです。もしコロナ後遺症でお悩みの方がいらっしゃれば、一度医師にご相談していただければと思います。また、第5波が広がる現在、マスクを外しての会話など、感染リスクが増す行動を決して行わないようにお願いいたします。