わが国における医師の「診察手法」は、入院患者さんを前提に構築されており、十分な時間をかけることが必要なものになっています。ですが、外来診察では十分な時間をかけることが出来ません。そのためか外来診察については、それぞれの医師が自分に合った手法で行っているのが現状だと思います。
私も、私なりの外来診察手法をこれまで作り上げてきました。その一つが「患者さんの呼び込み手法」です。私は患者さんを診察室に呼び込む際にマイクを使わず、診察室のドアを開けて直接「●●さん、診察室にお入りください」と呼び込みます。これには様々なメリットがあります。
診察室のドアを開ける前に、ドアの前で一旦気持ちを整え、最大限の笑顔を作ります。忙しい外来診察ですから、どうしても自分の表情が険しくなってきます。病を抱えた患者さんを迎えるのに、少しでもやさしい表情で接したい。気持ちを整えて笑顔でドアを開けると、患者さんのお顔を見つけた際に昔からの知人に会ったような嬉しい気持ちになるから不思議です。
患者さんが診察室に入るまでの状況観察はとても大事です。元気そうに歩いてくるのか、とてもしんどそうか。足を引きずっていないか、腰や膝が痛そうではないか。「診察室に入る前から診察が始まっている」と言われるゆえんです。また、杖をついていたり、車いす移動であったりすると、急がせると転倒のリスクなどが上がりますが、マイク呼び込みだと何度も名前をお呼びして、急かせてしまう可能性があります。直接お顔を見て「ゆっくりで良いですよ」と声をかけることはとても重要です。付き添いのご家族がいらっしゃるのに、遠慮して診察室に入られない方も時にいらっしゃいます。そのような時、私は必ず「お付き添いの方も、ご一緒にお入りいただいてはいかがですか?」と声をかけます。ご家族が一緒の方が、患者さんの安心度が格段に増しますし、ご家族にも患者さんの情報をお伝えする絶好の機会になるからです。
診察室に入る患者さんだけでなく、待合室全体の観察にもなります。待合室内に診察を急ぐ必要があるような、とてもしんどそうな患者さんがいないか。待ち時間が長くてイライラした表情の方がどれくらいいらっしゃるか。反対に待合室が空いていて、その後の患者さんには十分な時間をかけることが出来そうだなど、色々な情報を得ることが出来ます。
初めての患者さんには、必ず「初めまして、内科の田端と申します。担当させて頂きますのでよろしくお願いします」と自己紹介します。この「担当医宣言」が大事だと思っています。「あなたの診療に責任を持ちます」の意思表示になり、患者さんに安心感を与えると思うからです。私が行っている呼び込み手法は、患者さんに安心と信頼を与えていると信じて、毎日頑張っています。
もしこのコラムを若い医師の方がお読みでしたら、診察室への直接呼び込みを行うことを一度試みてください。私はとても良い手法だと思っています。医療面接や身体診察の手法に割く紙面がなくなりました。次の機会に書いてみたいと思います。