「いつまでたっても未熟だなぁ・・・」、医師になって33年目の春を迎えますが、こう思わぬ日はありません。
医学、医療の知見は膨大な量にわたり、一人の医師が全てを身に付けることなどできません。そして知識だけではなく、技術、態度、人格、人間観や社会観など、広い範囲にわたって医師として自らを高める必要があります。当然一人の医師だけで多岐にわたる問題に対応することが難しいため、現在では「多職種によるチーム医療」を行うことが求められています。ですが身体面だけではなく、心理面、社会面でも様々な問題を抱えた患者さんを診察室で目の前にしたとき、まずは医師としての自分自身のトータルな技量が試されます。私たちが登るべき山は高く険しく、そして「唯一正しい」道はなく、どこに山頂があるかも見えない、そんな感覚で日々医師としての研鑽を積んでいます。
医師になりたての頃は、毎日数えきれないほどの「わからないので調べるべきこと」が出てきました。それをメモしておいて後で勉強したり、上級医師に質問したりするのですが、全く追いつきません。積み残しが山ほど出てくるのと同時に、一度調べたことも十分に覚えておらず、再度「わからないこと」としてメモするときには、情けなくて泣きそうになりました。私は今でも行っていますが、最近では疑問点に出会う度に「またこれで新たな知識が得られる」と嬉しくなるようになりました。
基本的なことが身についてきたころに専門分野に入ります。専門分野で要求される内容は「教科書の範囲」ではダメです。学会レベルの知識や技術が要求されるため、論文を読んだり、学会に参加したりして最先端の内容を学びます。さらに専門分野の指導医になるころには、学会レベルではダメで「自らの蓄積に即した独自の工夫」が求められます。日々の診療の中で自分なりの新たなアイデアを出し、それを専門分野の診療に活かしてその成果を学術的にまとめ上げます。そしてまとめた内容を基礎に、さらに質の高い診療を目指すのです。
そんな感じで一生懸命に歩んできても、「一人の患者さんの要求」に真正面から向き合うのはなかなか大変なことです。いや、真正面から向き合おうとすればするほど、自分の未熟さを思い知らされると言った方が良いでしょう。「これは自分の専門ではないから、別の医者に行ってくれ」、この言葉を言うのは医師にとって簡単なことです。でも言われた患者さんはどうなのでしょう?「ではどこに行けばよいのか、急ぐべきなのか怖い状態なのか」、せめて医師としてのアドバイスが欲しいのではないでしょうか。また専門分野でなくても、医師なのですから調べて自分で対応できることはたくさんあります。むしろ専門外の方が正しい対応ができるように思うことがあります。と言うのも、専門分野ではあまりに経験を多く積んでいるために、患者さんの訴えをさらりと流してしまうことがあるのです。「患者の訴えをよく聞きなさい、正しい診断を伝えてくれる」は医師にとって有名な格言です。専門外では否応なしに自分の未熟さを思い知らされますから、より丁寧な対応になります。直視することは辛いことですが、これからも未熟な医師として前に進んで行こうと思います。