40年近く前のお話です。医学部に入学すると同級生同士で「なんで医者になろうと思ったん?」などの会話をするのが普通です。私たちの世代で案外多かったのが、「マンガのブラックジャックに憧れた」です。親が医師であるというのは定番ですが私のクラスにはあまりいなかった。「成績が良かったから」、「単純に学問として興味を持った」など人によりさまざまでした。私はどうだったかというと、「白い巨塔の里見助教授のような医師になりたかったから」が医師を志したきっかけでした。
「白い巨塔」と言うと今の若い方は、財前五郎は唐沢寿明、里見修二は江口洋介でしょうか?そう言えば最近、岡田准一さんが財前役をされたドラマもちらっと見ました。私のころはテレビドラマでは財前五郎は田宮二郎、里見修二は山本學さんでした(知らない人には「何のこっちゃになってきました)。私はドラマではなく高校生時代に小説を読んで「白い巨塔」にはまりました。何度読み返したかわかりません。
里見修二は浪速大学第1内科の助教授で、とてもヒューマンで誠実な医師です。身だしなみなどには労力を割かず、髪の毛はぼさぼさで白衣もよれよれで格好良くない(江口洋介みたいなイメージではないです)のですが、患者さんの診断や治療には労をいとわず真剣に取り組み、人間に対して優しいまなざしを向けます。また、浪速大学に在籍しながらも財前教授の誤診を告発する証言を法廷で行うのですが、彼のその行為を評価してくれるのは残された遺族と東教授の娘の佐枝子だけです。誠実でヒューマンな医師。間違ったことは自分をなげうってでも正そうとする医師。その姿にすごく感銘を受けました。
「君は医者である自分に対して、もっと厳しくあるべきだ、医療は人間の祈りだとさえ云われている、神を畏れ、神に祈るような敬虔な心で、患者の生命を尊重する心がなくては、医療に携わることは許されないはずだ。これは同級生であった里見助教授が財前教授にかけた言葉です。
1回目の受験は見事に不合格。1年間浪人をして2回目に医学部に入ることができました。医学部に入ってからは「里見助教授みたいな医師になるぞー!」と自分で言うのもなんですが一生懸命に勉強しました。ですが医学部生として医療の現場を見るにつけ、「理想はあくまで理想なのだな」と半ばあきらめていたところに耳原総合病院との出会いがありました。みみはらには里見先生のような医師がたくさんいました。
少しは里見助教授に近づけたのでしょうか?医学生時代に「このような医師になりたい」と思わせてくれたみみはらの先輩医師たちのようになれたのでしょうか?精進あるのみです。