先日のことです。私は出張のため新幹線に乗っていました。すると、「急病の方が発生しました。お医者様か看護師の方がいらっしゃいましたら、○号車までお越し下さい」のアナウンス。私が一番乗りで対応を開始し、ほぼ同時にもう1人の医師と看護師2名が集まりました。ご高齢の方でしたが、嘔吐後にぐったりして顔色がすごく悪いとのこと。まだ座席に座ったままです。「もしもし!分かりますか!」。肩をたたきながら大声で意識の確認です。反応がありません!うわっ、これは心停止かと思いながら呼吸を確認すると、うめき声の様な息が聞こえました。良かった、心停止ではありません。でも、頚動脈を触知しません。とにかく座ったままではダメですので、皆で力を合わせて床に寝かせました。
「さて、どうしよう?」。そこで看護師さん達が、大活躍。「先生!下肢挙上しましょう!」。確かにその通り。頚動脈が触れないということは、血圧が下がったために意識がないと言う事なのです。下肢を挙上すると、下肢に溜っていた血液が一気に心臓に還ってくれるため、血圧を上げてくれます。私はすぐに下肢挙上をお願いしました。すると、意識が戻ってきました。そこに、もう1人の看護師さんが「先生、バイタルサインを!」と、車内に装備されていた、血圧計、聴診器、パルスオキシメーター(指で酸素飽和度を測るための小さな器械)を持ってきてくれました。状態が回復したら、バイタルサインの測定。教科書通りの対応です。この看護師さんもすごいなぁ。血圧、心拍数、酸素飽和度ともに正常に回復していました。
乗務員の方が「次の駅で降ろして、救急車を呼ぶべきか判断をお願いします」と聞いてこられました。今回起こったことは「失神」ですが、失神の原因には生命にかかわる危険な病気も含まれています。病院への救急搬送が望ましいと判断しました。さて、救急隊に車内での経過を引き継がなくてはならないのですが、何時何分に呼ばれて、血圧等の値はどれくらいだったっけ?「先生。私、経過を全てスマホにメモしておきました」と看護師さん。あんたは、えらい!無事に救急搬送が出来ました。
私は耳原総合病院で約15年間も救急医療に従事してきました。でも、4年間のクリニック医師生活で、救急のカンがすごく鈍っている事を痛感しました。定期的なシミュレーショントレーニングや、たまには救急現場を経験するなどしないと、いざという時に身体が動きません。クリニック医師の生涯教育について考えさせられました。今回は看護師さん達に本当に助けられました。また、チームのカと言うのは大きいと感じました。1つの目標に向かって、メンバーが声を出し合い、良好なコミュニケーションを取って目標を達成する。メンバーを信頼して支え合うことの大切さも、今回のことで実感できました。
次はもっと上手く…いえ、新幹線は誰も体調不良にならず、快適に乗れる方が良いですね。