当院は在宅医療を行っています。定期的に訪問診療を行っている患者さんは約300人いて、その患者さんの病状が急に悪化した場合、定期訪問診療を行っている医師と看護師が、臨時で緊急往診をします。そして入院が必要なほど重症な病状ですと、自宅や施設から急性期病院にその場で紹介します(多くの場合は救急搬送になります)。当院に普段外来通院している患者さんや一度も当院を受診したことがない方については、基本的に臨時往診を行っていません。ですが、新型コロナウイルス感染症が大流行していた時期には、保健所などからの要請に応えて、臨時往診をよく行っていました。また多くの問題を抱えた患者さんのうち、行政から「医学的な介入を是非行ってほしい」と依頼を受けた場合や、当院の外来チームで話し合って「臨時往診をした方が良い」と判断した場合には、臨時往診をしてきました。
現在も高齢化社会ですが、今後は高齢者がさらに激増します。新型コロナウイルス感染症が大流行していた時期にも、「入院先がなかなか見つからない」と言ういわゆる医療難民が増えましたが、今後はそういう状況が感染症の流行にかかわらず常態化することが予想されます。また、独居高齢者や老々介護を行っている高齢者などは、体調が悪くなっても医療機関にアクセスする手段がなく、救急車を呼ばざるを得ない状況があります。現在堺市でも高齢者の救急搬送が非常に増えており、耳原総合病院を含めて救急病院は手一杯の状態です。入院できない高齢患者さんや高齢者救急の問題を、何とか解決してゆかなければなりません。
現在、医療機器の進歩は著しく、超音波検査機器は非常にコンパクトなものが各種存在しています。耳原鳳クリニックで使っているものは、心臓、血管、腹部、肺、腎臓や膀胱、筋肉、骨、関節など様々な部位をきちんと観察できる超音波検査機器です。病歴と身体診察所見だけでなく超音波検査機器を活用することで、かなりの所まで病状悪化の原因が特定できます。また、まだ当院では導入していませんが、3Kg程度の重さしかないレントゲン機器も売り出されています。これを使えば肺炎、心不全、骨折などの診断が可能になります。2分で結果が判明する血液検査機器まで売り出されています。そうすれば、脱水や電解質異常、炎症反応までその場で診断できるのです。入院しているのとほとんど同じです。診断がきちんとできれば、点滴治療や酸素投与は在宅医療でもできます。病院に入院しなくても「在宅入院」ができるのです。
また、当院が行っている臨時往診を、普段は外来通院している患者さんや一度も受診されたことがない方にまで広げることができれば、医療機関にかかることができない高齢者が救急車を呼ぶことなく医師と看護師の訪問診療を受けることができます。多くの場合は救急病院に救急搬送しなくても、投薬や点滴で改善する軽症の病状のはずです。「在宅救急」が可能になるのです。
私はこういう在宅医療を行うことでしか、日本でこれから多数出現してくる医療難民の受療権を守ることはできないと考えています。その先頭に、耳原鳳クリニックの在宅医療が立ってゆきたいです。