先日、神戸の病院に勤務する26歳の専攻医(2年間の初期研修を経て、専門研修に入ったばかりの医師のこと)が過労自殺をしたことが、大きく報道されていました。本当に胸が痛みます。医師になって3年目と言うのは、地域医療に貢献しながら医師としての力と自信をどんどんつけてゆき、プライベートでも楽しいことをいっぱい経験する、伸び盛りの輝かしい時期のはずです。勤務先病院の労務管理がどうであったのか、厳しく問われなければなりません。それと同時に、医師に相変わらずの長時間労働を強いざるを得ない、今の医療費抑制政策に憤りを強く感じます。
私は医師になって35年目ですが、医師になったばかりの頃、「なぜこれまでの先輩医師たちは、医師の労働条件を人間らしいものに変える運動をしてくれなかったのか?」と感じていました。医療機関、特に病院には24時間365日の患者対応が求められます。医療ニーズは時や場所を問わず発生するからです。医師の労働条件はついこの間まで、始業時間は9時だけど朝8時くらいには出勤して、患者さんの状態を把握して仕事に入り、17時に終業だけどそのまま翌朝9時まで当直業務に入り、翌日はそのまま通常の業務をこなして20時ごろに帰宅(つまり連続36時間労働)と言うのが普通でした。過労死しないのが不思議なくらいです。看護師さんはこれまで自らの労働条件改善のために集団でたたかってきており、交代勤務制にして夜勤回数を制限するなど、医師に比べればまだまともな労働条件です(それでもまだまだ改善してゆかなければなりませんが)。医師は集団で社会を変えてゆくと言う経験が乏しいためか、「医師増やせ」の声はなかなかまとまりません。耳原鳳クリニックが加盟している全日本民主医療機関連合会は、以前から日本の医師総数を増やさなければならないと主張し、私も声を上げ続けてきましたが、大きなうねりになっていません。
2024年4月から「医師働き方改革」と言う制度が始まります。これは医師の時間外労働を年間960時間に制限するものです。これまで野放しだった医師の時間外労働が制限されるのは非常に意義がありますが、この960時間と言うのは何と過労死と認定される基準に一致するのです。まだまだ不十分な制限です。また、これまで医師の自己犠牲的な労働に支えられていた時間外労働(特に夜間や休日の救急医療)が制限されるわけですから、地域での医療提供に大きな影響があります。影響をなくすには医師を増やすしかないのですが、政府や厚労省は「医師は不足しているのではなく偏在しているのだ」として、医師総数を増やそうとはしません。
厚労省の医師需給推計を見ますと、75歳で半数、80歳でも3割の医師が働き、過労死水準である年間960時間の時間外労働を行うことを前提にしています。また先進30ヶ国の中で人口当たりの医師数は、日本は下から4番目でしかありません。「医師増やせ」の声を是非世論にして、医師の健康と地域医療を守ってゆかなければなりません。