当院には在宅医療患者さんが約300名います。私は外来診療だけでなく在宅医療にも従事しており、私の受け持ち在宅患者さんは約40名ほどです。外来診療では一人の患者さん当たりせいぜい数分程度しか時間をかけることができず、早くて1ヶ月ごとの受診、長ければ3ヶ月ごとの受診になります。病気や症状に対応するだけで精一杯で、患者さんの日常生活状況まで把握することはなかなか難しいです。ですが在宅医療では、患者さんが生活されているご自宅や施設に伺い、直接日常生活状況を知ることができます。訪問頻度も月2回が標準ですし、病状悪化時には1人に対して30分から1時間程度の診療時間をかけることも多いです。ですから外来患者さんに比べると、在宅患者さんに対しては「まるで自分の家族のように感じる」ことが多くなっています。
「患者さんを自分の家族のように思うことは、医師にとって良い事なのか?」と言う議論があります。冷静に判断するためには、心情的に深く入り込まないほうが良いと言うことでしょう。ですが、私は研修医のころから判断に迷ったときには「自分がこの患者さんの家族だったら、どう考えるだろうか?」と問うてきました。そのことでより迷いが生じたり、自分の心が痛んだりすることもありましたが、おおむね間違うことなく、患者さんにとってより良い判断が出来てきたと思っています。
在宅患者さんを家族のように思って診療することは、患者さんにとって良いと言うよりも、むしろ私にとって非常に良い事のように思います。患者さん宅に訪問することがとても嬉しい時間になりますし、患者さんと対話して心の交流をすることは、私に大きな元気と勇気を与えてくれます。どちらが癒されているのか分かりません。私は在宅医療の診察を終えた際に、「また来ますので、それまでお元気でいてくださいね」と必ず患者さんと握手をします。握手するという行為には何だか不思議な力があります。お互いの手のぬくもりを感じますし、皮膚と皮膚が触れ合う感覚は、心の距離も縮めてくれます。握手は患者さんにとっても私にとっても良い効果の一つです。
私の訪問をいつも楽しみにしてくれている在宅患者さんがいます。満面の笑みで私を迎えてくれ、私も訪問日が待ち遠しい。ある日、患者さんを喜ばせてあげようと、柴犬の被り物をかぶって訪問したところ、とても喜んでくれました。ベッドサイドにその時の写真をかけてくれています(ご本人とご家族の承諾を得て掲載)。すると、次回の訪問日には、なんと患者さんが「ルカリオ(有名ポケットモンスターの一つ)」の被り物をかぶって待っていてくれました。被り物をかぶりながら私の到着を待っていてくれた患者さんの気持ちを思い、もう嬉しくてうれしくて。先日は羊の被り物をかぶっていったのですが、真夏のため汗だくになり少し失敗。次は何をかぶろうと楽しみながらアマゾンで探しています。皆さん、クリニックへの通院が難しくなった際には、是非当院の在宅医療を考えていただければと思います。