当院にはCOVID-19罹患後症状の患者さんが、結構な数で受診されています。「コロナ後遺症外来」として特に専門外来を設けたり、宣伝をしたりしている訳ではありません。2021年9月のこのコラムに私が「新型コロナウイルス感染症の後遺症について」を寄稿したために、ネット検索で当院がヒットし、それを見て受診される方が多いのです。それほどCOVID-19罹患後症状の患者さんたちは、受診先を選択するのに困っておられるということです。
他の医療機関を受診した多くの患者さんが、「検査をしても異常が認められないから、病気じゃないよ」と言われて、途方に暮れて当院を受診されます。ですが、新型コロナウイルス感染症に罹患して、その後何らかの症状が続き、種々の検査をしても症状を説明できる疾患が認められなければ、それは「COVID-19罹患後症状」として医療の対象になります。米国疾病予防管理センター(CDCと言う略語で世界的に有名です)は、定期的にCOVID-19罹患後症状について見解をまとめて発表していますが、「週の単位、月の単位、年の単位まで持続し得る」、「重症だった患者に多く認められるが、感染者なら誰でも起こりえる」、「ワクチン非接種者は罹患後症状を起こすリスクが高い」、「検査により説明がつかず、マネジメントも困難」など、患者さんを診療してゆく上で、有用な知見が得られます。日本でも、「新型コロナウイルス感染症診療の手引き 別冊罹患後症状のマネジメント第2.0版」が発出されており、その内容に従えば、どの医療機関でも診療が可能です。COVID-19罹患後症状の患者さんの行き場が無くなるようなことがないように、「困っている患者さんにまず寄り添う」と言う、医療機関としての当り前の姿勢を示さなければなりません。4月末には、COVID-19罹患後症状の診療を行える全ての医療機関の名前が、各都道府県のウェブサイトで公表される予定です。
COVID-19罹患後症状の治療については、「これが有効だ」と言う明らかなものが確立されている訳ではありません。全て対症療法になってくるわけですが、比較的多い「長引く咳」については、「咳喘息」の治療が有効であるように感じています。胸部レントゲンなどの画像検査で、肺結核や肺がんなど危険な病気が潜んでいないことを事前に確認することは必須です。咳喘息の治療には、ステロイドと気管支拡張剤の合剤を定期吸入することが多いのですが、COVID-19罹患後症状の「長引く咳」にも、それで比較的速やかに軽減・消失することが多かったです。難しいのは「強い倦怠感」です。仕事が行えないほどの強い倦怠感に見舞われる患者さんが少なくありません。よく「病後の倦怠感に有効」とされる「補中益気湯」は、私のこれまでの経験では無効でした。「真武湯と人参湯を併用」して「少し元気になった」と言う患者さんは結構いましたが、「全く効きません」と言う患者さんもいて、なかなか難しいです。いずれにせよ、主治医が諦めたら患者さんは頼る先がなくなるわけですから、常に最新の情報を得て患者さんの診療にあたってゆこうと思います。