皆さんはACP(アドバンス・ケア・プランニング)と言う言葉をご存じでしょうか?日本では「人生会議」と言う言葉で紹介されていますが、最も深くかかわる職種である私でさえ、「人生会議」ではピンときません。ACPとは、どのような人生の最期を迎えるのか、ご本人を中心としてご家族や近しい方々、医療チームが何度も話し合いを行うプロセスのことです。超高齢化社会を迎え、ACPはこれからとても重要なことになってきます。医療従事者の多くが「自分が死ぬときは、病院ではない方が良い」と言います。私もこれまで多くの高齢患者さんを病院で看取ってきましたが、人工呼吸器や多くのカテーテル類を身体につながれ、ご家族と会話を交わすことなく亡くなられる姿を見ると、「ご本人は、これで良かったのだろうか?」と感じることが少なくありませんでした。自宅で、近しい方々に見守られて、静かに息を引き取るような亡くなり方と言うのは、なかなか実現が難しいものです。
私は内科医で、外来診療と訪問診療を行っています。外来診療患者さんの多くは75歳以上の高齢者や生命にかかわるリスクを抱えた方たちです。訪問診療患者さんの多くは医療機関への通院が困難な方や、がんの終末期の方であり、いつでも生命の危険があり得る方たちです。ですから、本来なら私のほとんど全ての受け持ち患者さんにACPを行っていて良いのですが、なかなか進んでいません。その理由の一つに、「死」と言うものに真正面から向き合うことは、患者さんに「縁起でもない」と捉えられたり、「怖い」と感じられたりすることが多いことが挙げられます。ずっと以前のことですが、私が外来で重症の心不全患者さんに「急なことがいつでもあり得るので、どのような治療を望まれるか考えておきたいのですが…」と話をしたことがありました。ですが、その患者さんは「こんなに元気なのに、すぐに死ぬわけないやろ!」と怒って帰られてしまいました。結局その方は、その後本当に急に亡くなられたのですが、「人生の最期について、患者さんと率直に話し合うのは難しい」と感じた経験でした。健診結果一つを取っても、「心配で心配で仕方がない」と言われる方が多いのですから、自分自身の病気や死期について正確な情報を知るのは、とても勇気がいることだと思います。
ACPが進みにくいもう一つの理由に、とても時間がかかると言うことがあります。短い診療時間の中で、医師から丁寧な説明を患者さんに行うことは、なかなか難しい課題です。一度に全てを話し合うのではなく、少しずつ話を進めてゆくことが望ましいと思います。ACPのタイミングとしては「この患者さんが、一年以内に亡くなられたら驚くか?」と言う問いに、主治医が驚かないと思う時期が良いタイミングだとされています。これを読まれている皆さんは、自分でどう思われますか?医師が「急なことはいつでもあり得る」と思っている患者さんは、案外多いものですが、そのように自覚している患者さんは少ないと思います。一度主治医とACPについて話をしてみることをお勧めします。