先日読んだ本に「人として成長してゆくのには、安全地帯が不可欠である」というようなことが書いてありました。安全地帯には、人、組織、環境、趣味など様々なものがなれるそうですが、なかでも「人との絆」が最も重要な安全地帯のようです。確かに子どもの成長を考えた場合に、親など「心から安心できる場所」の存在は、必要不可欠だと思います。
私にとっての安全地帯は何なのかな?と考えてみました。まず、家族の存在は私にとって最大の安全地帯です。自宅で家族と過ごしていると、いつも「幸せってこんなのかなあ」と“ホワンホワン”した気持ちになります。医師としての毎日の職場である耳原鳳クリニックと、理事長としての法人運営の仕事も、自分にとって安心できる貴重な場であると感じます。医師としての仕事は大変ですが、「職員に支えられている」と実感する毎日です。「無差別・平等」の法人理念を実践し、コロナ禍の中地域の患者さんと利用者さんのために激務をこなし、事業所経営も守ってくれている職員には、本当に頭が下がります。また、理事長として大きな組織のかじ取りを行うことは強いストレスを感じる仕事ですが、信頼できる幹部が周りにはたくさんいます。仲間たちと交わす会話の時間も、とても楽しいひと時になっています。私にとって仕事の場は、心から安心できる安全地帯です。
私には趣味がありません。何か趣味があったらそれは大きな安全地帯になるのかなあと思いますが、今のところ趣味の時間を取ることは難しそうです。皆さんは、「マインドフルネス」と言う言葉をご存じでしょうか?宗教で言われている「瞑想」のような感じで、雑念を頭から振り払い、手足、体幹、頭部と、感覚を順番に研ぎ澄まして、体と周囲から発せられているものを感じ取るような行動です。私はこれを通勤の歩行時に行っています。遠くまで澄み渡る青空、風が耳の横を通り過ぎてゆく音、畑や田んぼのひろがりと季節により変化してゆく色合い、心を落ち着かせる鳥のさえずりと虫の声、足の裏に感じる大地の重み、皮膚に感じる太陽の暖かさ。自宅から最寄り駅までほんの10分ほどの歩行ですが、要らぬことを考えない時間を作るだけで多くの新鮮な感覚を感じ取れ、安心できる時間になります。
考えてみると、私の周りは安全地帯であふれています。本当にありがたいことです。反対に、私は誰かの安全地帯になれているのでしょうか?患者さんにとって私は主治医であり、耳原鳳クリニックの職員にとって私は所長であり、約1600名もの法人職員にとってのトップリーダーでもあります。私が患者さんや職員の「大きな安全地帯」にならなければ、その役割を果たすことが出来ません。簡単なことではないと思いますが、人間力を磨き、多くの人たちにとって安心できる存在に成長してゆきたいと思います。