最近、新聞やテレビなどで「無料低額診療」について取り上げられることが増えてきました。とても良いことだと思います。皆さんは無料低額診療についてどれほどご存じでしょうか?社会福祉法に基づき、生計困難者に無料または低額で医療を提供できる制度で、この事業を提供する医療機関はきちんと書類を整えて行政に申請し、許可を得なければなりません。耳原鳳クリニックをはじめ、耳原総合病院など同じ法人である同仁会の医療機関は無料低額診療事業を行っています。ですが、実施している病院や診療所はまだまだ少なく、日本全体では医療機関の0.4%程度だそうです。患者さんの自己負担分を医療機関が肩代わりするのですから、広がらないのも無理はないのかもしれません。私たちは「無差別・平等の医療と福祉」の理念のもと、ずっと以前から無料低額診療を行っています。
私は耳原総合病院勤務時代に、長らく救急医として働いてきました。救急外来は現代の駆け込み寺とも言え、医療費支払いが困難な方が、症状悪化の我慢を重ねて救急搬送される、そのような場面に多く遭遇してきました。2013年からの5年間に耳原総合病院の救急外来を受診し、この無料低額診療制度を適用した79名の方の調査をしたことがあります。男性が84%と多く、年代別では60代が最も多い割合でした。無保険の方は16%いましたが、73%は正規の保険証を持っておられ、「健康保険があっても自己負担支払いが厳しく、医療にかかれない」実態が明らかでした。
すでに進行がんになっていた方が10名いました。1ヶ月以上前からの症状出現が大半を占めていました。多くがかなり進行した状態で、他院に転院された2名と、調査時点で生存されていた1名を除き、皆さん早期にお亡くなりになりました。耳原総合病院が無料低額診療を行っていることを知って受診された患者さんは一人もいませんでした。
救急外来から直接集中治療室に入院するほどの重症患者さんが11名いらっしゃいました。多くの方が無職あるいは不安定就労の状態で、集中治療の甲斐なく早期にお亡くなりになられた方が3名でした。耳原総合病院が無料低額診療を行っていることを知って受診されたのは2名だけでした。
貧困に陥っても「まだ働けるでしょ」と生活保護受給に至らず、無職もしくは不安定就労の状態で、自己負担金支払いが困難な状況になり、受診を我慢して重篤な状態で救急受診される、そのような状況が続いています。コロナ禍によりその傾向には拍車がかかっています。耳原総合病院や当院が無料低額診療事業を行っていることを広くお知らせし、気軽に利用できるような取り組みを進めてゆく必要があります。このコラムをお読みの皆さん、医療費支払いに困っている方がいらっしゃいましたら、是非ご紹介ください。一人でも多くのいのちを救いたいです。